高校かるた選手権の声かけルール変更の件について

高校かるた選手権の声かけルール変更の件について

2024年夏の高校選手権も無事に終わり、まずは選手の皆さま、そして関係者の皆さま、大変お疲れさまでした!

さて本稿では、2024年夏の大会前、そして大会の講評でも話題に上った「団体戦における声かけルールの変更」の件について、その経緯を(私が知る限りで)まとめておくとともに、個人的な心配や自戒を残しておこうと思います。

以下ではいろいろと偉そうなことを書いてしまっていますが、運営の方々にもいろいろと事情があったのだろうと思います。本稿は、問題の提起というよりも、個人的な心配や私自身の自戒を記した反省文と思っていただければ幸いです。

経緯

私が初めてこの件を知ったのは2024年の5月で、Xでのポストを通してでした。5月11日付けで、日本高等学校かるた連盟と全日本かるた協会の連名で以下のポストにあるような通知が関係者に送信されたようです。

この通知は、SNS上でまたたくまに大きな話題になりました。1とはいえ、それほど大きな騒ぎになることもなく、数日たってからはこの件について発信する人はほとんどいなくなったという印象です。

その後、引用したポストにもあるように、6月16日の総会にてこの件に関する質疑が行われています。2その質疑では、通知のタイミングが適切であったかどうかという点について質疑が行われています。結果としては、通知されたルールに特に変更は加えられることなく、大会を迎えました。

そしていよいよ、7月20日に団体戦が行われました。私は現地観戦もしておらず、youtubeの中継動画を見ただけですが、大会自体は大きなトラブルなく終わったようです。閉会式の講評では、審判長の西郷永世名人が、今回の声かけルールの件について言及しています。3

問題点の整理と私の立場

この件についてSNS上で言及されていた問題点はおおきく以下の二つに分けられると思います。

  1. 通知のタイミング(を含む意思決定のプロセス)が適切だったか
  2. 変更されたルールの内容が適切か

本稿では、1についてのみ言及します。4まず私はこの点について、「問題がある」という立場であることをここで明確に述べておきます。5以下では、通知のタイミングの問題点について考えてみたいと思います。

通知が行われたタイミングは、いくつかの都道府県で予選が開催され、すでに出場を決めた高校が出ているというタイミングでした。つまり、いくつかの出場校は今回通知されたルールとは異なるルールで、試合を行い出場権を獲得しています。出場権を獲得した高校としては、予選を突破した形とは異なる形で本戦に挑まなくてはいけないという状況です。また、予選を突破できなかった高校としては、通知されたルールだったら結果が変わっていたかもしれない、という思いが生じるのは自然かと思います。いずれも、主役である高校生にとって、不利ないしは不満な状況であると考えます。これが、私が通知のタイミングに問題がある、と考える理由です。6単純な話、オリンピックの予選と本戦でルールが異なっていたら問題じゃないですか?、ということです。

個人的な心配

ここでは少し個人的な心配を記しておきたいと思います。

今回の件は、おそらくちょっとした騒ぎにはなったが何事もなく終わった、という評価がされていると思いますが、私はそれを少し危惧しています。なぜかというと、高校選手権は毎年資金不足でスポンサーを非常に必要としているからです。私もプログラム協賛でわずかながら支援していますが、スポンサーはがんばっている高校生を応援したい、という気持ちのはずです。そして、自分の出したお金が高校生のために正しく使われることを望んでいますし、そう信じています。ですが、主催側に高校生を軽視する姿勢が認められている状態で、安心してお金を預けられるでしょうか?

もしかしたらこれは、私自身が学生時代からかるたと長く付き合ってきていて、思い入れが強いために抱く感情かもしれません。それに私みたいな小口の機嫌を損ねたところで大勢に影響がないこともまた事実です。では大口の、たとえば企業のスポンサーはどう考えるでしょうか。コンプライアンスやCSR(企業の社会的責任)が非常に強く叫ばれている時代です。私のような個人よりも、むしろちゃんとした企業のほうが、ガバナンスの甘い団体に出資することをより躊躇するのではないでしょうか。

でもまぁ小さい業界だし、大丈夫じゃない?という感覚は現代では非常に危険です。どんなに小さくニッチな世界でも、SNSによって業界外の人が知り拡散されてしまえば思わぬ炎上騒ぎにつながるかもしれません。それをみた大口のスポンサーが撤退する可能性があることを軽視するべきではないと思います。今回の件が、それほどの大トラブルにつながる問題だとは、正直私も思っていません。(実際そうはなっていません)しかし、ハインリヒの法則にあるように、小さなトラブルがいずれ大きなトラブルにつながることを歴史が証明しています。7些細なトラブルに対しても、適切に対処してく努力が必要だと、私は思います。大事になったら、業界全体が大きな損害をこうむることになって、誰も幸せになれません。

オトナの責任

もうひとつ自戒を込めて記しておきたいことがあります。それは今回の件に対する業界内のオトナの反応についてです。多くの人がSNS等で自身の意見を発信していましたが、(私も含めて)具体的なアクションを起こしたひとはほとんどいなかったのではないでしょうか。私の知る限りでは、引用したポスト主さんが、唯一具体的な反対意見の表明をSNS上で募り、実際に総会の質疑にいたっています。このアクションは「当事者である高校生自身が行動を起こさなくてはいけない状況を回避してくれた」という点において、非常に重要な行動だったと思います。この場を借りて、個人的に感謝を申し上げたいと思います。この行動によって、ある程度心の整理がついた高校生もいたのではないでしょうか。

もしも、オトナが誰も声を上げずに、選手である高校生自身が手を挙げて反対意見のアクションを起こしていた(起こさせてしまっていた)としたら、オトナとしてこんなに情けない話はありません。本来(私を含む)オトナは、高校生が競技に集中し、練習の成果をいかんなく発揮できるような舞台を整える責任があると思います。それを選手自身にやらせてしまったり、高校生自身を矢面にた立たせてしまったりしてはいけない、と強く思います。

今後私自身もどれだけ具体的なアクションを起こせるかはわかりませんが、自戒の意味も込めて、ここに記しておきたいと思います。

勝手に想像してみた

問題点の2については触れない、と言い放ちましたが、何を隠そう私はガヤガヤ団体が大好きなので、やっぱり声かけのある団体の方がいいなぁと思ってしまいます。今回の件で、高校選手権から声かけがほとんどなくなってしまうのではないか、と思っている方もいると思うのですが、もしかしたらそこまで心配することはないのかも?と楽観的に思える材料(妄想)があるので、共有します。ただし、この先はすべて妄想ですので、そこんとこよろしくお願いします。考えていたらちょっとしたミステリを解いているような気分になったので、調子に乗って文章にしている次第です。

今回の件について、もしかしたらこう思う人がいるのではないでしょうか?

「なぜ今回のルール変更は、来年からではだめだったんだろう?」
「今年も昨年と同じコロナ対応ルールにしておけばよかったのではないか?」

とても素朴な疑問だと思うのですが、私はこの疑問をまだ解消できていません。

ということで、勝手に推理(妄想)してみましょう。

社会におけるコロナの扱いの変化に対し、声かけ賛成派が「今年は戻しましょう!」と言い出した際に、正直このままなくしてしまえばいいと思っていた声かけ反対派と議論がぶつかったのではないか。そして、その折衷案として、今回のルールができ、通知されたのではないか。そう考えると少し納得できる点があります。

ひとつめは、通知されたルールをよく見ると、自チームへの声かけ(戦略的なものも!)が許可されている点です。反対派からすれば、これまでのコロナ対応ルールを継続させれば、それでいいはずです。しかし、通知されたルールは、「(制限はあるものの)チーム内への声かけを許可する内容」でした。これは今回のルールが、声かけ賛成派が内部で戦った結果できた折衷案であることを支持する状況証拠です。

ふたつめは、通知のタイミングです。反対派と賛成派の議論・調整が難航するのは、想像に難くありません。この折衷案作りでバトルしていたがゆえに、通知のタイミングが遅れてしまった、と考えれば、タイミングが遅かったことに関しても理解できます。だって、今回のタイミングが遅かったことは内部の人たちだってわかっているはずですから(そう信じたい・・・)

おそらく今回の通知を見た声かけ賛成派の方は、「声かけ反対派が勝手にルールをおしつけてきた!」と思ったかもしれませんが、実態としてはむしろ逆で、「内部の賛成派が結構がんばったのではないか」というのが私の勝手な想像です。つまり、内部に声かけ賛成派はそれなりにいて、今後また議論がなされていく可能性があるのではないでしょうか。

また、かるたの世界では、別の大きな団体の大会として職域があります。職域の運営は全日協とはある程度独立した(してるよね?)実行委員会が行っているので、ガヤガヤ系の団体が突然消滅することはないのではないでしょうか。そう思うと、その対比として、高校選手権はわりと静かめな団体戦として違うカラーになっていくのも、多様性としてはアリなのかもしれません。8

7月28日に通知された大学選手権の団体戦の声かけルールは、旧来のルールと大きく変わらないもので、全日協とも議論が行われたそうですので、今後の動向が注目されます。9引き続き団体の声かけルールに関しては、いろいろありそうだなーと、投げやりな感じで終わりたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました!

  1. これは私が観測した範囲ですが、SNSは当事者である選手や過去に選手だった人が多いこともあり、批判的な意見が目立っていたように思います。 ↩︎
  2. 全日協会員の方は議事録が郵送されていると思います。この議事録が私のもとに来たのは大会後でした。 ↩︎
  3. 言及内容はyoutube(https://www.youtube.com/watch?v=cSgCzNjTYCY&t=14312s)でご覧になれます。 ↩︎
  4. 2については言及しない理由は以下の二つです。ひとつめは、ルールの賛否は結局それぞれの好みのようなものであるという点。ふたつめは、団体戦の声かけ(コミュニケーション)をルールで規定するのは現実的に難しい、と思っている点です。2について、これ以上のコメントはまた別の機会にしようと思います。 ↩︎
  5. 立場を表明しない選択肢もありましたが、それはこれを読んでくれている方(特に高校生)に対して、オトナとして不誠実な気がしたので、はっきりと述べることにしました。 ↩︎
  6. これに対する反論として、実は今回の通知のタイミングが正当化できる場合があります。それは、「ルール変更が競技性にまったく影響しないことが証明できる場合」です。今回のケースでは「声かけルールの変更が、競技性(もっと言えば勝敗)に影響を与えるか」がポイントになります。ここは私の主観になりますが、(良くも悪くも)声かけの仕方にって競技性が変化することは、実際に団体戦をしたことがある人ならわかるのではないでしょうか。そして今回のルール変更の内容は、競技性に影響を与える変更内容だと私は思います。したがって、私は今回のケースにおいて、この反論は正当化できないと考えます。ちなみに、ちょうど今オリンピックが開催されていますが、どの競技も選手同士が声をかけ合うというのは自然に行われています。一方、いわゆる武道では、そう言った行為は禁止または制限されているということが多いようです。
    ↩︎
  7. 1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常(ヒヤリ・ハット)が存在するという労働災害の経験則。(wikiより)少し意味は違いますが、似たような意味をもつ言葉に「一事が万事」というものもありますよね。 ↩︎
  8. 従来からある比較的静かな団体戦として、各会対抗や総文祭がありますが、(ほとんどの場合)学生組織のチームで出れる団体ではないので、ちょっと別枠かなと思います。 ↩︎
  9. 高校選手権と大学選手権の声かけルールがかなり異なることを考えると、今回通知されたルールは「高校生の大会であること」を踏まえたものであることがはっきりわかります。現存する他の団体戦についても声かけがなくなっていくのでは、という疑念は、ほぼ払しょくされたのではないでしょうか。 ↩︎

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